「なぜ歩くの?」
サンティアゴ巡礼に興味を持った人が最初に感じる疑問のひとつが、これだと思います。
信仰心がないと歩けないの? 体力に自信がないとダメ? 何か特別な理由がないといけないの?
答えを先に言うと、全部「そんなことはない」です。
私はスペイン・ガリシア州の公認ガイドをしており、サンティアゴ・デ・コンポステーラに16年住んでいます。
毎年100人以上の日本人の方を案内してきて、日本だけでなく色んな国の巡礼者とも数えきれないくらい話してきました。
その経験から言えるのは、カミーノを歩く理由は「人の数だけある」ということ。
そしてその多様さこそが、このルートが世界中の人を引き寄せ続けている理由だと思っています。
どんな人が歩いているの?数字で見る巡礼者のプロフィール
まず、実際にどんな人が歩いているかを数字で見てみましょう。
巡礼事務所の統計によると、2025年にコンポステーラ(巡礼証明書)を受け取った人は530,987人。
毎年記録を更新し続けています。
国籍はヨーロッパ(イタリア・ドイツ・ポルトガルなど)が上位を占めますが、アメリカやアジアからの巡礼者も年々増加中。
アジアでは、韓国からの巡礼者が特に多いですが、中国人も多いです。冬でも若い世代が歩いています。
年齢層は30〜60代が中心ですが、10代から80代まで幅広く歩いています。
男女比もほぼ半々、むしろ近年は女性がわずかに上回る傾向にあります。
歩き方も様々。
94%が徒歩で、一人で歩く人が約半数。残りはパートナー、友人、家族と一緒です。
▶ルート別の詳しい統計データはこちら:
つまり、特定の年齢層や国籍、性別に偏っているわけではなく、本当に多様な人たちが集まってくる場所です。
宗教的な目的で歩く人は、実は少数派
「サンティアゴ巡礼=キリスト教の聖地巡礼」というイメージを持っている方も多いと思います。
確かにその通りで、もともと使徒ヤコブの墓を目指す宗教的な旅でした。
でも現在はどうかというと、2025年の公式データを見ると少し意外な結果が出ています。
巡礼事務所の統計では宗教目的が約46.6%となっていますが、これには注意が必要です。
コンポステーラを受け取るには宗教的または精神的な動機が必要とされているため、実際より宗教目的の割合が高く出る傾向があります。
宗教と文化など他の動機を組み合わせた層が33.8%、純粋に非宗教的な動機の人が約20%います。
ビーゴ大学オウレンセ校経営・観光学部の学生の卒業論文(Rodríguez Sánchez, 2020)の中で、インタビューを受けた現地のアルベルゲ(巡礼者宿)のホスピタレロ(受付スタッフ)がこう言っています。
「もし巡礼者がコンポステーラ申請のときに正直に答えたとしたら、ほとんどが”日常から離れるため”と答えると思います」
私が現場で話してきた巡礼者たちの声とも、一致すると感じます。
巡礼者の動機に関する学術研究は数は多くないというのが私の印象。私が見たのはだいぶ前なので、一番最近ので見つけた論文も参考にしています。
「スピリチュアル」は「宗教的」とは違う
ここで少し立ち止まって考えたいのが、「スピリチュアル」という言葉の意味です。
宗教的な動機は、信仰、祈り、罪の赦し、聖人への崇敬といった、特定の宗教的文脈に結びついた動機のことです。
一方でスピリチュアルな動機というのは、もっと広い意味を持ちます。
自分自身と向き合いたい、日常のノイズから離れて静かに考えたい、何か大切なものを見つめ直したい—
そういう、宗教とは切り離された内面的な探求です。
先ほどの卒業論文でも、スピリチュアルな動機を持つと答えた人のうち、宗教的動機も同時に持つと答えたのは13%だけでした。
つまり約41%の人が、「宗教ではないけどスピリチュアル」という層だったことになります。
カミーノはもともと宗教的な道ですが、今や宗教を持たない人、信仰に興味がない人にとっても、深い意味を持つ場所になっています。
これは矛盾ではなく、それだけこの道が持つ魅力が普遍的だということだと思います。
実際にはどんな理由で歩くの?
では具体的に、どんな動機で歩く人がいるのか。
同じ論文の中で、巡礼者が「歩きながら最も集中していること」を聞いたところ、上位に来たのはこんな項目でした。
- 自己成長・発達(平均4.25/5点)
- 身体を動かすことを楽しむ(4.19)
- 人生について考える・内省(4.03)
- 人と出会う(3.59)
- 文化遺産を訪れる(3.59)
一方で、「祈る・礼拝する」は平均2.17点と最も低い項目でした。
これが、現在のカミーノの実態です。
歩きながら考える、自分を見つめ直す、人と話す、自然の中に身を置く—そういう経験を求めて人が集まってくる場所になっています。
私が案内してきた日本人の方々も、出発前の動機は本当にさまざまです。
定年後の節目に、仕事が一段落したタイミングで、大切な人を亡くしてから、なんとなく呼ばれた気がして——。
理由の形は違っても、日常とは違う環境の中で歩くことで、ゴールした時の顔は、来たときと少し違って見えます。
私自身が巡礼とどう出会ったか、正直に書いた記事もあります。
「目的がなくても」歩けるのがカミーノ
最後にもう一度、最初の問いに戻ります。
「なぜ歩くの?」
実はこれ、答えを持って来なくていい場所でいいんじゃないか…最近、そう思うようになりました。
歩いているうちに見つかることもあるし、見つからなくても歩き切ったという事実だけが残る。
それで十分な人もいる。
先ほどの卒業論文では、回答した巡礼者の100%が「また歩きたい」と答えていました。
また歩きたいと感じる巡礼者、巡礼体験の満足度の高さは他の調査とかでも共通して出ている結果です。
動機が宗教であれスピリチュアルであれレジャーであれ、歩いた人たちはほぼ例外なく満足していた。
これは、けっこう珍しいことだと思います。
カミーノは「正しい理由」がないと歩けない場所ではありません。
むしろ、理由がはっきりしないまま来る人もずっと受け入れてきた道です。
少しでも気になっているなら、まずはどのルートが自分に合うかを見てみませんか?
少しでも気になっているなら、まず一歩を踏み出してみませんか?
現地集合・現地解散で、今年11月の1週間、一緒に歩きましょう。
「いつか歩いてみたい」を「今年の秋」に変えたい方のために、ツアーを作りました。
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最後まで読んで頂きありがとうございました。
