【2026年2月・追記】
今のサンティアゴは、春からの賑わいを前にした「嵐の前の静けさ」の中にあります。
ですが、これまでの統計データや現地の熱気を感じるにつれ、2027年の聖年を挟むこれからの3年間、この道がかつてないほどの巡礼者で溢れることは間違いありません。
巡礼者が完全に消えた2020年の「あの静寂」を一人で歩いた経験。それは、改めて読み返すと、どんなに街が混雑しても変わることのない、カミーノが持つ普遍的な魅力を、改めて教えてくれました。
激動の3年間を前にした今、あの日々を振り返ることは、皆さまに「自分らしい巡礼」を叶えていただくための大切なヒントになれば嬉しいです。
この記事は、2020年コロナ禍のスペインでサンティアゴ巡礼路を歩いた時の私の体験記です。
2020年:日常が消え、道へと踏み出すまで

3月上旬のある日、在宅勤務中の私に届いた仕事仲間からのメール。そこには、切迫した現場の状況が綴られていました。
「すぐ返信できなくてごめん。(カミーノの)予約キャンセルが相次いで対応に追われているの。本当にカオス状態よ」
少し前から感じていた不安が、現実のものとなった瞬間でした。
3月14日に警戒事態宣言が発効され、私は一時解雇(ERTE)を受け、約3か月の閉じこもり生活を送ることになりました。
先行きの見えない日々が続きましたが、解除後の7月、ムシアまで自転車で走った夫が帰宅して私に言いました。
「こんな夏のカミーノは、この先2度と体験できないだろう。お前も今だから歩け」
この言葉が、立ち止まっていた私の背中を強く押してくれました。 そこから、1月に途中まで歩いていたフィステーラへの道を完歩。
さらに、平日の朝や週末を利用して、ポルトガルの道、プリミティボの道、そしてフランス人の道の一部と、祈るように歩き続けました。
歴史的にも聖年の前後は忙しくなると分かっていたからこそ、まさかこの2020年に、これほどまでにカミーノと向き合う時間を持つことになるとは、想像もしていませんでした。
とは言え、コロナと共存の巡礼で私も不安な点がありました。歩く前と実際に体験して思ったことを次で紹介します。
コロナ禍の巡礼:不安の中で見つけた「安心」の形
当時の巡礼は、常に緊張と隣り合わせでした。
移動の緊張感:密閉されたバス車内での居心地の悪さ、些細なことに神経質になる自分。
宿泊の選択:安全を最優先し、個室(ホテル)を選択。コロナ後初のホテル泊、どういう対応なのか気になりましたが、レセプションの透明ボードや従業員のマスク着用、備品の徹底した消毒など、当時はどこも非常に神経を使って対策をしていました。個室のバスタブでマスクを外した瞬間の解放感は今でも忘れられません。
[2026年・追記] 2020年のあの時、「個室」を選んで得られた安心感は、実は今の混雑期にも通じるものがあります。2026年からの数年間は、公共アルベルゲはもちろん民間の宿泊施設でもベッド争奪戦が予想されます。(特にガリシア州内)早めに「自分だけの安心できる場所」を予約しておくことは、旅の疲れを癒やすだけでなく、心にゆとりを持って歩くための一番の秘訣ですよ。
アルベルゲでの宿泊はどうだったか?

2020年当時、アルベルゲでは感染予防のために定員を50%に制限。
2段ベッドも1人のみで使用するといった対策が取られていました。
料金体系も当時は特殊で、アルベルゲが対策コストで値上げする一方、ホテルが大幅に値下げするなど、今では考えられない逆転現象が起きていたのです。
静寂の中で際立った「カミーノの本質」
フィステーラへ向かう道中、目の前をシカが横切るほどの静寂。
前後を確認しても誰もいない山道を一人歩きながら、ふと我に返る瞬間がありました。
「なぜ私は一人で、こんな場所を歩いているんだろう?」
でも、不思議と怖くはありませんでした。
それは、いつもと変わらない「黄色い矢印」があったからです。
『30年前、カミーノが今のようなブームになる前、夏でもカミーノはこのぐらい人が少なかったんだろうな…。』
標識は完備しているのに、巡礼者のいない道を歩きながらふとそんなことを考えました。
[2026年・追記] 誰もいない道でも、たった一つの「黄色い矢印」があれば迷わず進めました。これはカミーノが持つ、本当に素晴らしい力です。2026年、周りに人が増えてくると、つい「早く歩かなきゃ」と焦ることもあるかもしれません。でも、矢印さえ見失わなければ大丈夫。周りのペースに流されず、自分のリズムで一歩ずつ進んで下さいね。
巡礼者たちの強さと、当時の景色の記録
フランス人の道で出会った巡礼者たちは、驚くほどタフでした。
巡礼者の声 「ガリシア封鎖の直前に警察から連絡があって、慌ててタクシーで移動したよ。でも、タクシーの窓から見えた州境の森が素晴らしかったんだ!サンティアゴへ着いた後に、歩けなかった区間に戻って歩き直すつもりだよ」
ハプニングさえ楽しんでいる彼らや、「俺のゴールはフィステーラだから封鎖なんて関係ない」とマイペースに進むスペイン人巡礼者。
世の中がどれほど騒がしくても、カミーノという別空間に身を置く人々は、誰もが自分の旅を全うしようとしていました。
また、1人で歩いている女性巡礼者が思ったよりも多かったのが印象に残りました。
一方、街に目を向けると、状況の厳しさを肌で感じる瞬間もありました。
あの賑やかなサリアでさえ、一日中店の前のテーブルに座って客を待ち続けるバルのオーナーの姿。
中には不安のあまり陰謀論を語り始めるオーナーもいて反応に困ることもありましたが(笑)、それほどまでに現地の経営者たちは追い詰められていたのだと思います。
巡礼とマスク:大切にしたのは「住民への気遣い」

山や森の中を一人で歩く時は外していましたが、小さな村や民家のそばを通る時は、必ずマスクを着用しました。
正直、歩きながらの付け外しは面倒でしたが、それでも続けたのは「道沿いに住む人々への気遣い」として当然と思ったからです。
当時は「マスクなしで歩ける日が来てほしい」と切実に願っていたのが嘘のようです。
サンティアゴから、これからの3年間に寄せて
[2026年・追記] 当時、誰もいない巡礼路を歩きながら、「いつになったら、また人々はこの道に戻ってくるのだろう」と、先の見えない不安の中にいました。
それから月日が流れ、2027年の聖年を挟む特別な3年間がいよいよ始まろうとしています。サンティアゴに住んで15年以上になりますが、公認ガイドという立場でこの大きな波を迎えるのは、私にとっても新しいフェーズ(挑戦)だと感じています。
私の願いは、あの時と変わりません。 初めてのカミーノに不安を抱えてやってくる方を、笑顔でお迎えすること。そして、現地の文化や自然へのリクエストを忘れず、安心して歩いていただくためのパートナーであることです。
もちろん、巡礼には正解はありません。15年前とは状況も変わり、歩き方も多様化しています。私の考え方やスタイルに共感してくださる方には、このブログの情報は間違いなくお役に立てるはずですし、そうでない方は必要な部分だけを参考にしていただければ、それでいいと思っています。
大切なのは、どんな歩き方であれ、お互いをリスペクトすること。そして、周りに流されず、自分に無理をしない「自分のためのカミーノ」をすること。
激動の3年間になりますが、皆さまが自分らしい一歩を踏み出せるよう、私はこれからもこの街で、皆さまをお待ちしています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。