ガイドとしてお客様にスペイン人の苗字が2つある話をすると、とても興味を示してくれます。
父方と母方の苗字を受け継ぐ伝統があると思っている人が多いけれど、実はわずか100年ちょっと前に法律で決まったルールです。
サンティアゴに住んでいて、苗字にまつわる色んなケースを目にしてきました。
もともとあった苗字からdeを外した人、父方と母方の苗字をハイフンでつなげて統一した人。
個人的にもずっと興味があったテーマだったので、今回改めて論文などを調べてわかったことをまとめてみました。
スペインの苗字(apellido)はなぜ2つあるの?

父方と母方の苗字を受け継ぐ仕組みが、19世紀の行政制度の整備を通じて定着したものです。
スペイン人と関わったことがある日本人がまず驚くことのひとつが、スペイン人の名前の長さ。フルネームを聞くと「名前+苗字+苗字」という構成になっていて、苗字が2つあります。
ある系譜学者はこう書いています。
「スペイン人の苗字の付け方は、伝統と呼ぶ人もいるが、実は100年も経っていない慣行だ」
もともとスペインに苗字という概念はなく、8〜9世紀の文書では名前だけで記録されていました。
その後、貴族階級を中心に父親の名前をもとにした父称が生まれ、16世紀頃から父方と母方の苗字を合わせて使う習慣が広まっていきます。
歴史研究者の調査によると、1822年の最初の戸籍登録の試みから1889年の民法での定着まで、80年以上かかっています。
現在は両親が苗字の順序を選ぶことも可能です。
スペインでよく見る苗字とその意味・語源
スペインの苗字には下記のような由来があります。
父称由来(〜の息子)
スペインで最もよく見る苗字の多くは、父親の名前に「〜の息子」を意味する語尾「-ez」をつけた父称由来のもの。
例えば、GonzálezはGonzaloの息子、FernándezはFernandoの息子、MartínezはMartínの息子を意味します。
この「-ez」という語尾がスペインの苗字の特徴で、ポルトガルではPires、Sanchesのような形になり、カタルーニャでは同じ語尾が使われません。
地名由来
出身地や居住地をそのまま苗字にしたものも多いです。
Castro → 城、要塞(ラテン語のcastrumから)
Vega → 草原、川沿いの平地
Montes → 山
Del Valle → 谷
ガリシアに多い苗字は?スペイン他地方との違い
スペイン全体で最も多い苗字はGarcíaだが、ガリシアでは5位にとどまり、1位はRodríguezです。

INEのデータによるガリシアの苗字トップ25を見ると、上位10位まではスペイン全国でも一般的な苗字が並びますが、面白いのは11位以降で、ガリシアや隣のポルトガルで特に多く見られる苗字が登場し始めます。
中でもCastro(11位)は、ガリシアを代表する苗字として知られています。
続くIglesias(12位)、Otero(17位)、Varela(18位)、Rey(20位)、Pereira(23位)、Piñeiro(24位)なども、ガリシアやポルトガルで特に多く見られる苗字です。
ガリシア語由来の苗字とは?スペイン語との違い
さらに興味深いのが、ガリシア語を語源とする苗字の存在です。
たとえばCastiñeiras。ガリシア語のCastiñeiraを語源とする地名由来の苗字で、「栗の木が点在する土地」を意味します。
スペイン語のCastaño(栗の木)と同じ語根を持つが、ガリシア語形がそのまま苗字として定着しました。
ガリシア各地に今もCastiñeirasという地名が残っており、そこから苗字が生まれました。
deのつく苗字は貴族の証?
スペインの苗字を見ていると、「De la Cruz」「Del Valle」「De la Vega」のようにdeがついているものがあります。
以前、スペイン人の友人と話していたとき、友人がある人の苗字を見て「あ、deがついてる!やっぱり」と言いました。
理由を聞くと「deがつく苗字はいい家庭が多い」という話でした。
その話が頭に残って、ずっと気になっていました。本当にそうなのだろうか。
歴史的な背景を調べてみると、答えは「完全に間違いではないが、正確でもない」という感じです。
中世の貴族が出身地や領地の名前を苗字として使うときに自然とdeがついたのです。
Núñez de Lara、Fernández de Castroのような形で、これは「どこの」という出身・所属を示す単純な前置詞でした。
ドイツ語のvonやフランス語のdeが貴族の称号を意味するのとは違い、スペインのdeは出身地を示す文法的な語であって、貴族の称号ではありません。
では、なぜdeがつく苗字が「格式がある」イメージになったのか。
19世紀に戸籍制度が整備される過程で、多くの人が苗字のdeを省略する動きが起きます。
その流れの中で意図的にdeを残した家系が目立つようになり、結果的に「deがある=格式がある」というイメージが生まれていったようです。
実際、deを意図的に外した人は、私の身近にもいます。
ただし、「貴族だからdeがついた」というよりも「多くの人がdeを省略した結果、残った家系が目立つようになった」という偶然の産物に近いと考えるのがよさそうです。
好きなスペイン人の苗字のルーツを調べてみよう
スペインの苗字には、その人がどの地方の出身かを示すヒントが隠れていることがあります。
INE(スペイン国立統計局)のサイトでは、苗字ごとの地域分布を地図で確認できます。
🔗 INE 苗字検索ツール:https://www.ine.es/widgets/nombApell/index.shtml
使い方は簡単で、検索窓に調べたい苗字を入力するだけ。
スペインのどの地方にその苗字が多いかが地図で表示されるので、気になるスペイン人の苗字を入れてみて下さい。
その人のルーツがどこにあるかが見えてきます。
全国どこにでもある苗字なのか、特定の地方に集中している苗字なのか、調べてみると意外な発見があります。
スペイン人の名前についてもっと知りたい方へ
苗字の仕組みがわかったら、名前の文化も気になりませんか?
スペインでは祖父母や両親と同じ名前をつける習慣など、日本では考えられないような命名の慣習があります。
最後まで読んで下さりありがとうございました。