ヨーロッパ最大の音楽イベント「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」。
この記事では、スペインにおける代表選考の仕組み「Benidorm Fest」や、話題となったChanel(シャネル)の出場背景、そしてSNSでの盛り上がりまで、スペイン独自のユーロビジョン文化をわかりやすく解説します。
はじめに|ヨーロッパの音楽の祭典「ユーロビジョン」とは?
ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)は、欧州放送連合(EBU)が主催する世界最大級の音楽コンテストです。
1956年から開催され、毎年5月にヨーロッパ各国の代表が自国の楽曲を披露します。
欧州の音楽シーンを反映するだけでなく、文化的・社会的な議論のきっかけにもなるイベントです。
ユーロビジョンにおけるスペインの位置づけ
スペインは1961年にユーロビジョン初参加。以来、欠かさず出場している「常連国」のひとつです。
1968年にはマッシエルが、翌1969年にはサリョメが優勝を果たし、歴史ある参加国とされています。
過去の成績
スペインは過去2回の優勝歴を持ちます。
しかし、2000年代以降は中位〜下位に沈む年も多く、選曲や演出に対して国内で議論になることも少なくありません。
Big Fiveとは?
スペインは「Big Five(ビッグ・ファイブ)」の一員として、毎年準決勝を免除され決勝から参加できる特権があります。
他の4カ国はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアで、いずれもEBUへの財政的貢献が大きい国々です。
代表選考の仕組み:Benidorm Festとは?

2022年以降、スペイン代表の選考は「Benidorm Fest(ベニドルム・フェスト)」という国別予選イベントを通じて行われています。
複数のアーティストがテレビ公開でパフォーマンスを行い、視聴者投票と審査員評価で代表が決まります。
審査の方法
Benidorm Festでは、プロ審査員、国際審査員、テレビ視聴者の3つの票が合算されて最終結果が出ます。
このため、実力派アーティストが選ばれるとは限らず、人気・パフォーマンス性・話題性も重要な要素です。
Chanelの出場で話題に!ガリシア語の楽曲はなぜ選ばれなかった?
Benidorm Fest 2022は、スペインのユーロビジョン代表を決めるために新設された音楽コンテストで、初開催から大きな注目と論争を呼びました。特に、最終的に代表となったChanelの選出方法とその過程が大きな議論を巻き起こしました。
Chanelとはどんな歌手?
Chanelはキューバ出身・スペイン育ちのパフォーマーで、ダンス・歌ともに高いスキルを持ちます。代表曲「SloMo」は振り付けや衣装が強烈で、国内外で大きな注目を集めました。
議論の背景: 拮抗した決勝と主要候補
決勝では以下の3組が特に注目を集めていました。
- Chanel(カタルーニャ出身、キューバ系スペイン人女性、楽曲「SloMo」)
- Tanxugueiras(ガリシア出身の女性トリオ、楽曲「Terra」)
- Rigoberta Bandini(カタルーニャ出身女性、楽曲「Ay mamá」)
特にTanxugueirasはガリシア語で歌い、地方色や多様性の象徴として多くの支持を集めました。
🎧 関連ポッドキャスト:NHKラジオやテレビの監修をされた先生にインタビューしたエピソードは内容が濃いです!
投票システムと結果
Benidorm Festの決勝は、以下の3つの投票ブロックで構成されていました。
- 専門家審査員(50%)
- 一般視聴者によるテレ投票(25%)
- デモスコピック審査員(25%)(無作為抽出の視聴者グループ)
この配分が大きな論争の火種となります。
最終結果:
Tanxugueirasは一般投票で圧倒的な支持(約71%)を獲得したものの、一般投票では約4%と最下位レベルだったChannelが専門家審査員から最高点を獲得し、総合1位になったのです。
Rigoberta Bandiniも一般投票で高得点だったが、審査員票で及びませんでした。
国内の反応
- 一般投票でTanxugueirasが圧勝したにもかかわらず、審査員票が大きくChanelに傾いたことで「民意が無視された」
- 審査員の一人Miryam BeneditedがChanelと過去に仕事上の関係があったことが判明し、「出来レース」「身内びいき」だ
とSNSやメディアで批判が噴出したり、Tanxugueirasはガリシア語で歌い、地方文化や多様性の象徴として支持されたため、彼女たちの敗退はガリシア地方や多文化主義を重視する層の不満も増幅させました。
Chanel本人や関係者へのSNS上での中傷や脅迫が相次ぎ、Chanelは一時的にSNSアプリを削除するほど精神的な負担を受けました。
最終的にChanelはユーロビジョン本戦でスペインを3位に導きましたが、Benidorm Festの選考方法は翌年以降大きな見直しと議論のきっかけとなりました。
ガリシアに住む私は、Benidorm Festの決勝戦をテレビで見てがっかりした人のひとり。
その時の想いや、スペイン国内の反応についてはポッドキャストでもお話しています。
🎧 関連ポッドキャスト:
ユーロビジョン、ガリシア語の歌がスペイン代表になれなかった話(Spotify)
まとめ|ユーロビジョンを通して見えるスペインの多様性と葛藤
ヨーロッパで毎年行われる音楽コンテストのユーロビジョン。
各国が自国の文化やアイデンティティを表現方法に取り入れながらコンテストでの勝利を競い合う様子が興味深いです。
代表選考の舞台「Benidorm Fest」の一件は、単なる音楽イベントを超え、地域言語、ジェンダー、民族的多様性、そして“民意と審査のバランスなど、現代スペインが直面するテーマを映し出していて今でもよく覚えています。
ユーロビジョンは一夜限りのエンタメにとどまらず、文化やヨーロッパの近隣諸国の関係など考えるきっかけになるイベントです。
音楽を通じて見えてくるスペイン、そしてヨーロッパの今をあなた自身の視点で感じ取ってみてくださいね。
最後まで読んで下さりありがとうございました。