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文化・習慣

スペイン・ビトリア観光で知る真実|テロ被害者メモリアルセンターで私の1997年と2004年が交差した日

ビトリアの旧市街に位置するテロ被害者メモリアルセンター(Centro Memorial de las Víctimas del Terrorismo)の重厚な外観
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いつこ

多くの巡礼者が目指すゴール、サンティアゴ・デ・コンポステラ在住。スペインガリシア州公認ガイド。観光学修士(Master)としての知識と現地在住者ならではの視点を活かし、ガイドブックには載らない「本当のガリシア」を発信中。 年間100名以上の日本人巡礼者を聖地へご案内しています。

バスク州の州都、ビトリア。

観光オフィスがあるスペイン広場へ行く途中に、ひときわ重厚で立派な建物が目に飛び込んできました。

「Centro Memorial de las Víctimas del Terrorismo(テロ被害者メモリアルセンター)」

実は、現地に着くまでここにこうした施設があることを知りませんでした。

でも、「ETA(エタ)」という言葉は、スペインに住む私にとって決して無関係ではない歴史。ここは訪れなくてはと、ビトリア滞在最終日に中に入りました。

期せずして訪れたその日が、スペインにとって特別な意味を持つ「3月11日」だったのも、何か不思議な縁を感じずにはいられませんでした。


1997年:532日間の暗闇と、痩せ細った一人の男性

ETAに532日間拘束されたホセ・アントニオ・オルテガ・ララ氏の部屋を再現した展示

展示室の最初の大きな衝撃は、ホセ・アントニオ・オルテガ・ララ氏が拘束されていた部屋の再現スペースでした。

1997年、サンティアゴに留学したばかりだった私は、ニュースに映る信じられないほど痩せ細った彼の姿をよく覚えています。

でも、なぜこんなにニュースで取り上げられているのか理解できず、「この人は500日以上も閉じ込められていたんだよ」とスペイン人に教えてもらいました。

メモリアルセンターで再現されたその場所は、3畳にも満たない、あまりにも狭く暗い空間でした。

真っ黒な画面に浮かび上がる彼の言葉を読んでいると、当時のニュース番組の音、あの時のスペイン社会の緊張感が、まるで昨日のことのように蘇りました。

私よりも若いスペイン人が数人同じスペースにいましたが、みんな真剣な顔で黙ってララ氏の生の声を聞いていました。

1997年:48時間のカウントダウンと「白い手」

スペイン中が連帯した「白い手」のデモの記録を伝える展示パネル

オルテガ・ララ氏の生還から間もなくして起きたのが、ミゲル・アンヘル・ブランコ氏の事件でした。

彼が拉致され、殺害されるまでの48時間。

スペイン中がテレビの前で息を呑み、奇跡を祈っていました。

そして悲劇が起きた後、スペインの人々が白い絵の具を手に塗り、「テロ反対」を叫んで街を埋め尽くした「白い手(Manos Blancas)」のデモ。

留学生だった私は、スペインの人々の驚異的な連帯感と、社会全体が「もう限界だ」と大きなエネルギーを持って動き出した瞬間の熱量を肌で感じていました。

センターに展示された当時の写真や映像は、単なる記録ではなく、私自身の記憶の一部でもありました。

2004年:日常を切り裂いた3月11日の記憶

そして、時代は2004年へと進みます。

展示室にある「11-M(マドリード列車爆破事件)」のプレートを前に、私は再びあの日へと引き戻されました。

当時、私は日本に帰る直前で、お友達の家にお世話になっていました。

マドリードへ向かうために、被害に遭ったあの路線を毎日利用していました。しかし、事件が起きたあの日は、たまたま用事がなく、家で少し遅くまで眠っていたのです。

静かな朝を破ったのは、お友達からの「大丈夫だね。良かった。すぐにテレビをつけて」という電話でした。

あの後、初めて同じ路線の列車でマドリードへ向かった時、爆破された車両の横を通りました。

そして、たまたま目の前に座ったイスラム圏にルーツがあると思われる方に対して、拭えない恐怖を抱いてしまったのです。

外見だけで判断してはいけないとはいつも思っていても、あの時は単純に怖いと思ってしまいました。

テロは命を奪うだけでなく、私たちの心にある「他者への信頼」までも一瞬にして破壊してしまう。

その恐ろしさを突きつけられた瞬間でした。


おわりに:今の平和を歩くために

ビトリアの街角には、犠牲者があった場所に記念のプレートが埋め込まれています。

ここを訪れる前なら気づかずに通り過ぎていたかもしれません。

正直、観光地として「楽しい」場所ではありません。

しかし、広島の原爆資料館を訪れるのと同じように、「目を逸らしてはいけない過去」がここにはあります。

短い滞在時間でしたが、今のスペインの平和がどれほどの犠牲と勇気の上に成り立っているかを再認識する、非常に価値のある時間でした。

センターの公式サイトには、作家プリーモ・レーヴィのこんな言葉が掲げられています。

“Meditar sobre lo que pasó es deber de todos” (起こったことを深く考えることは、全員の義務である)

バスク地方を訪れるなら、華やかな観光地だけでなく、ぜひ一度この場所へも足を運んでみてください。

過去を知ることは、その土地をより深く理解し、未来への平和を願う一歩になるはずです。


施設の基本情報:テロ被害者メモリアルセンター

項目 内容
正式名称 Centro Memorial de las Víctimas del Terrorismo
所在地 C/ Olaguibel, 4, 01001 Vitoria-Gasteiz, Araba/Álava
開館時間 火曜〜土曜:10:00〜14:00、16:00〜19:00 / 日曜:10:30〜14:30
休館日 月曜、祝日の一部
入場料 無料
公式サイト memorialvt.com
言語 展示パネルはスペイン語・バスク語(一部英語併記あり)。視覚的な展示が多いため、言葉が分からなくても伝わる重みがあります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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いつこ

多くの巡礼者が目指すゴール、サンティアゴ・デ・コンポステラ在住。スペインガリシア州公認ガイド。観光学修士(Master)としての知識と現地在住者ならではの視点を活かし、ガイドブックには載らない「本当のガリシア」を発信中。 年間100名以上の日本人巡礼者を聖地へご案内しています。

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