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スペイン留学

【体験談】スペインの大学院で観光を学ぶなら知っておきたい「修士課程」のリアルと現場の教え

2021年1月16日

サンティアゴ・デ・コンポステラ大学の校舎。スペインの大学院の教室の様子。観光学修士を専攻した日本人女性の留学体験談
Itsuko Horiサンティアゴ在住ガリシア州行員ガイドプロフィール画像

いつこ

多くの巡礼者が目指すゴール、サンティアゴ・デ・コンポステラ在住。スペインガリシア州公認ガイド。観光学修士(Master)としての知識と現地在住者ならではの視点を活かし、ガイドブックには載らない「本当のガリシア」を発信中。 年間100名以上の日本人巡礼者を聖地へご案内しています。

※はじめにお読みください(体験談について)

この記事は、2010年にサンティアゴ・デ・コンポステラ大学大学院へ留学した私自身の体験をもとに再構成した回顧録です。
記載されている大学院のシステムや名称などは当時の情報に基づいています。現在の具体的な入学手続きやビザの要件については、必ずご自身で希望の大学へ直接お問い合わせください。

制度に関する個別のご質問・ご相談にはお答えできかねますが、ひとりの大人がキャリアを休止して挑んだ「現場での学び」の記録が、あなたの挑戦のヒントになれば幸いです。

「スペインの大学院で、さらに専門性を高めたい」 「キャリアアップのために、現地の修士課程(Master)に挑戦したい」

そんな志を持つ方にとって、避けて通れないのがスペイン特有の大学院システムです。

私は2010年、日本の仕事を辞め、スペイン北西部のサンティアゴ・デ・コンポステラ大学(USC)の大学院へ飛び込みました。

専攻は「観光マネージメント」。

大学のサイトを隅から隅まで読み込み、万全の準備をして臨んだはずの留学生活でしたが、そこには現地へ行かなければ分からなかった「理想と現実のギャップ」がありました。

この記事では、スペインの修士課程にある2つの種類と、私が現場でメジャーを持って駆け回った泥臭い調査の日々、そしてそこから得た学びについてお話しします。 

スペインの修士課程にある「2つのタイプ」

2つの方向を示す看板

スペインの大学院(修士課程)には、大きく分けて以下の2つのタイプが存在します。これはボローニャ宣言以降のEU共通の学位認定に基づいた仕組みで、現在も基本の考え方は同じです。(必ず公式情報をご確認下さい。)

① Máster Oficial(マステル・オフィシアル:公式修士)

  • 特徴: スペイン教育省が認定する公的な学位。
  • メリット: 学費が比較的安く、修了後は「博士課程(Doctorado)」への進学資格が得られる。
  • 教員: 国の規定により、教壇に立つのは原則として「博士号を持つ大学教授陣(研究者)」に限られます。

② Máster Título Propio(マステル・ティトゥロ・プロピオ:独自修士)

  • 特徴: 各大学が独自に開設する実務に特化した学位。
  • メリット: 企業や国際機関の現役ビジネスマンを講師に呼べるため、カリキュラムが非常に実践的。
  • 教員: 大学教授だけでなく、「現場を知るプロフェッショナル」が講師を務めることができます。

【私の失敗】サイトを読み込んでも見抜けなかった「罠」

実務的な知識を学び、現地での仕事に活かしたいと考えていた私は、当然「実践的なコース」を求めていました。

修士課程専用サイトを隅から隅まで読み込み、「実務的(Práctico)」という言葉を確認し、カリキュラムも魅力的に見えました。

当時の私は「公式」という響きの良さと学費の兼ね合いもあり、迷わずMáster Oficial(公式修士)を選択したのです。

しかし、いざ授業が始まってみると、そこに大きな誤算がありました。

「公式」のコースを教えるのは、学問を究めた立派な教授陣です。

しかし、彼らは「観光ビジネスの現場」を知るプロではありませんでした。

「あんなに調べて準備したのに、日本からこのシステムの違いを見抜くのは不可能だった……」

退路を断ってスペインへ来た私にとって、この「理想と現実の乖離」は、最初は受け入れがたいほどの衝撃でした。

教科書を飛び出し、メジャーを持って「現場」へ

「それならそれで、何が何でも2年で修士号を取って帰ろう」

そう割り切った私は、アカデミックな理論を学ぶ傍ら、可能な限り自分の足で「観光のリアル」を探しに行くことにしました。

特に印象に残っているのは、修士課程のプロジェクトの一環で、ガリシア州のあるエリアの宿泊施設を対象に行った「アクセシビリティ(バリアフリー)」の調査です。

同僚と一緒に、エリア内のホテルやカサ・ルラル(田舎家ホテル)を一軒一軒訪ね、実際にメジャー(巻尺)を当てて計測させてもらいました。

法律の理想と、歴史的な建物の「現実」

ガリシアには、伝統的な石造りの古い民家を改装した素敵な宿がたくさんあります。

しかし、いざ調査をしてみると、そこには近代的な「バリアフリー法」の基準を満たすことの難しさが浮き彫りになりました。

  • 構造上の限界: 歴史的な建物の保護ルールもあり、後からエレベーターを設置したり、廊下を広げたりすることが物理的に不可能なケース。
  • 「名ばかり」のスロープ: 「スロープがあるから大丈夫」と言われて見に行くと、実際には傾斜が急すぎて、車椅子では到底登れないような代物だったり。
  • トイレの死角: 車椅子で入るための旋回スペースが全く確保されていない設計だったり。

観光の法律では立派なことが書かれていても、実際の現場には、予算や建物の制約という「壁」がいくつも存在していました。

地元の熱意に触れた貴重な経験

一方で、厳しい制約の中でも「少しでも多くの人に来てほしい」と、工夫を凝らして改善に取り組んでいる宿のオーナーさんたちの姿も目の当たりにしました。

教科書を読んでいるだけでは決して見えてこない、「観光地として人々を受け入れることの本当の難しさと、地元の人の熱意」

現場を歩き、メジャーで数字を測り、オーナーさんの本音を聞いたこの調査は、今振り返ってもとてもよい真の学びのひとつとなりました。

結論:システムを超えて得た「サバイバル力」

私の大学院生活は、当初の予定通りではありませんでした。

でも、その「想定外の環境」でもがき、割り切って吸収した全ての経験は、今の私の揺るぎないベースになっています。

理論中心のコースだったからこそ、自分から現場へ足を運ぶ重要性に気づけた。

日本からでは分からない不条理に直面したからこそ、現地で生き抜くサバイバル力がついた。

これからスペインの大学院を目指す方は、ぜひ「OficialかPropioか」というシステムの違いを理解した上で選んでください。

後、観光を勉強する上でスペインのどの地方が一番いいのか、観光の中でも専門があればそれを扱っているコースはあるののか?という視点からリサーチして下さい。

そして、もし選んだ先が自分の理想と違っていたとしても、「そこから何を掴み取るか」はあなた次第です。

スペインでの学びは、教室の中だけにあるのではありません。頑張ってくださいね!

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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堀いつこ

ガリシア州公認ガイド:堀 いつこ

Santiago de Compostela 在住

観光学修士(Master)としての専門知識と、現地在住者ならではの視点を掛け合わせ、ガイドブックには載らない「本当のガリシア」をお届けしています。年間100名以上の日本人巡礼者をご案内する経験から、現地の最新事情に基づいた旅のプランニングをサポートします。

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